蜃楼
弦の上でゆっくりと弓が引かれると、低く空気が震えた。体の奥まで沁み入るようなその音がどんな意味を持つのか、ひとつも分からないスキピオにもそれは心地よく思えた。
膝に乗せたテルティアがふくふくとした両手を伸ばし、覗き込んだスキピオの鼻先に触れた。やっと一歳になった末の妹、まだ何も知らないまっさらな赤子にも、心地がいいのかもしれない。ぱたぱたと裸足で部屋を駆け回るガイウスは、てんで拍子の合わない歌を歌っていたが、それも楽しそうだった。
ソファでスキピオの両隣に座るルキウスとアエミリアは真面目な顔をして、なんだか緊張している。
「これってじょうずなの?」
こっそりと耳打ちしてきたアエミリアに頷くと、嬉しそうに笑った。それが聞こえていたのだろう父が苦笑するのを見るにあまり自信はないようだけれど、スキピオにはただ心地いいので十分だった。椅子に腰掛けてチェロを弾く姿はまったく見慣れないのに、その大きな楽器が父の手に馴染んだもので、大切なものなのだということは分かった。
父が育ち、いま新しい家族と共に暮らすこの家には、好きなだけ楽器を鳴らすことのできる音楽室があった。スキピオはそれは伯母のための部屋かと思ったが、「ルキウスも楽器が弾けるんだよ」と祖父がばらしてしまったのだ。子供たちが弾いてみせてとねだるのは当然のこと、父がそれを無碍にできないのもまた当然のことだ。
「ルキウス、やってみたいんでしょ?」
肩を跳ねさせたルキウスが頬を赤くして、首を横に振ろうとした。けれどおずおずと父の方を見る。それに応えて笑った父が手を止めた。
「おいで」
駆け寄ったルキウスを腕の中に迎えて、まだ小さな手に弓を握らせる。重ねられた父の手に導かれるままそれを弦の上で動かすと、ぎこちないながらも音が鳴った。
ぱっと笑顔を浮かべる我が子に、父は目を細める。
「本当に習いたいなら、体に合う小さなチェロもある」
「ほんと? ぼくにもできる?」
「ああ。私にできたんだからずっと上手にできるよ」
もう一度、と促されて真剣に腕を構えるルキウスに、父とそうして過ごすことへのぎこちなさはなかった。
テルティアは赤ん坊で、ガイウスはもうこの家に来る前のことなど忘れてしまっていた。けれどルキウスとアエミリアは、実父のことを分かっているし、その男から投げつけられた心無い言葉も覚えている。
今年の初め、弟たちと再び会えたときには、どうして最初から父親でいてくれなかったのかと、ふたりがそう思っているのがスキピオには分かった。けれど戸惑いとわずかな意地が作っていた壁は、どんな刺々しい態度も構わず注がれ続けるような、底なしの愛情を求め続けていた幼い心がいつまでも守るには脆いものだった。
弟たちは夏休みを無邪気に楽しみ、転校先の学校で作った友達をこの家に招くこともあるという。肩の上で短く髪を切り揃えたアエミリアは外遊びが好きで、日焼け止めが追いつかないのだと母親を困らせている。
「アエミリアもやりたい?」
「ううん。でも、あのピアノ、触ってもいいのかな」
「お祖父様はなんでも好きなようにっておっしゃったからね」
「……ちょっと触ってみる」
どうしてか忍び足でピアノに近付いたアエミリアは、つついた鍵盤が思いのほか深く沈んで大きな音を出したのに飛び上がった。父に振り返られて目を丸くしたまま固まっている。
もっと好きに弾いてごらんと言われ、本当にめちゃくちゃに指を動かし始めるのを可笑しがってガイウスが姉の隣に並んだ。手のひらで叩かれたピアノは、腕の中でテルティアがぐずり始めたくらいにはうるさい。
スキピオは水を差さないようそっと立ち上がって、気付かれないうちに音楽室を出た。廊下で戸を閉めてしまえばそれなりに音が遠くなるのだから便利なものだ。
リビングに入ると、祖父と継母とが何枚ものパンフレットをテーブルに広げて話し合っているところだった。車を選んでいるらしい。ふにゃふにゃと泣き始めている娘に気がついて継母がこちらを向く。
「あれ、どうしたの。ご機嫌斜めじゃない」
「音がうるさかったみたいです。あと多分おむつが」
「ありがとう、見てくるね」
彼女が父より年上だというのには未だに慣れないが、継母はスキピオには昔通り接すると決めているようだった。テルティアを受け取った継母は祖父に断ってから部屋を出ていく。
スキピオは、音楽室に戻ってもよかったけれど祖父の向かいに座った。
「……車を買い替えるんですか?」
「ファミリー向けの車種にしたほうがいいだろうということになってね」
確かに、すでに家族全員は乗り切らない状態だった。
「ルキウスがチェロを習うかもしれません、アエミリアはピアノを弾きたがるかも」
幼い子供の、ほんのいっときの興味かもしれないけれど。そうかと答えただけの祖父は、しかし聴こえてくるめちゃくちゃな音に耳を澄ませていた。
この祖父が父とあまり相性がよくないこと、それでいて孫たちに優しいこと、継母とはそれなりの距離感を保っていることは、スキピオには不思議である。過去の一部でしかなかった祖父、いまは血の繋がりがないスキピオにそう呼ばれて返事をするこの人物は、家族と呼ぶには少し遠い。
ただ、最近は父とも長い会話をするらしい。そもそも会話がまともに続きもしなかったというのは衝撃だったが、それはまあ、済んだ話である。
「ルキウスたちは、不安そうにしていませんか」
何を指すわけでもない曖昧な問いに、祖父はおそらくと、やはり曖昧に答える。
「最初のうちはルキウスが夜中に家の中を歩き回っていたが、もうしなくなった。ガイウスの夜泣きも減ったよ。アエミリアも爪を噛まなくなった」
「……よかった」
「プブリウス、最近引っ越しをしたと聞いたが」
「あ……はい、友人のところに移ったんです。そうした方が色々と便利だし、空き部屋を誰かに使ってほしかったみたいで」
メテルスの名を出しても当人については当然ぴんとこないだろうから詳細を省き、きっかけを誤魔化した説明だったが、納得してもらえたようだった。
「長いことアルバイトを休んでいただろう、何か関係があるのかと思ったが違うんだな」
「それはちょっと、大学の勉強が」
「お前の父さんが心配している、その友人が気に入らないらしい」
「……不思議ですね」
気に入っていると思っていたから、本心から首を傾げた。
パンフレットをまとめた祖父がそのスキピオの顔をじっと見て、多分笑った。そうして何も言わずに見つめられていると、父はどうしてこの人と打ち解けないのだろうとまた思ってしまう。
親が子供に注ぐ、いつまでも変わらない眼差し、それを父が受けているのを見るのは擽ったい心地がする。父は結婚をして一度に四人の子供の親となって幸せそうだった。本当に心の底から、あるいは体の底から、愛しくて仕方がなくてそれが嬉しい、そんなふうに感じているのが見ていて分かる。
きっと、ルキウスたちが実父に会いたいと言えば会わせるだろう。忘れろとも言わない。本当の父親は自分だと押し付けがましく言いもせず、ただ、あの子たちの幸せのために力を尽くせることを喜びとしている。
「プブリウス?」
「はい……」
「プブリウス、どうした」
この家に来るのは好きだ。弟と妹が、今もそう思ってもいいと受け入れてくれるのが嬉しい。今度こそ悲しい思いをせずに成長していくのを見ていたかった。
けれど、どうしてか、ここに来るたびひどく疲れた。楽しいのにだんだんと頭が重たい気がしてくる。そんなものは一晩眠れば消え失せるから、毎回そうなるのを忘れて訪ねてしまう。
手の甲に何かが落ちた感触に目を落とすと、肌が濡れていた。ぽたぽたと続けて落ちた雫に目を瞬くとまた濡れて、スキピオは目元に手をやった。
「……あの、すみません、違うんです」
言葉尻が震えて、それに内心でぎょっとした。目元を拭った手までもがひどく震えて、忙しなく瞬きを繰り返していないと視界がぼやける。
祖父が狼狽えている気配にどうにかしなくてはと思うのだが、壊れたように涙が止まらなかった。胸が詰まって吐く息がぎこちなく、それが頭を鈍らせる嫌な感じがした。顔を上げられない。
「何も、その……何かあったとか、じゃ、なくて……ほんとうに……」
みっともなくつっかえて歪んだ声だった。こちらに手を伸ばしかけて思い止まった祖父が腰を浮かせる。
「いまルキウスを」
「やめて、やめてください、違います」
何が違うのか、自分でも分からなかったが、やめてほしいと強く感じた。驚かせるから、説明できないから、いくつか理由を思い浮かべてから、申し訳ないからだと答えに行き着く。
申し訳ない? なにが?
思考までも取り留めなく忙しない。とにかく落ち着こうとして深く息を繰り返していっとき平静に戻りかけるのに、顔を上げようとするとまた揺らぐ。
音楽室から、また父がチェロを弾く音がうっすらと聞こえてきた。
祖父の手が額に触れた。そのひんやりとした手のひらが前髪を上げて、ソファのそばに膝をついた祖父がスキピオの顔を覗き込む。その困り切った顔が、父にはきっと鬱陶しがって見えたのだろうなと思った。
「プブリウス、なにもそんなに泣くことは」
「あ──ッ!!」
リビングどころか家中に響き渡ったのは、ガイウスの声だった。
廊下から部屋に入ったところでこちらを指差す弟は、目も口もまんまるに開いて、スキピオが何か言おうとすると廊下に向かって叫んだ。
「あにうえが泣いてる! ちちうえ! ちちうえちちうえちちうえ! おじいちゃまがあにうえのこと泣かした!!」
バンと乱暴にドアを開く音がし、父がリビングに飛び込んでくる。まだ若い容貌に将軍としての往年の凄味が戻り、既に容疑を確定し被疑者を追及する体勢を整えていた。
「父上ッ!」
「違う……!」
たじろいだ祖父にガイウスが飛びつき、泣かした泣かしたと繰り返すが、囃し立てるその顔は満面の笑顔である。祖父に抱え上げられてキャッキャと甲高い笑い声を上げながら連れ出されていった。
あまりのことにぽかんとしていたスキピオは、隣に座った父のことも間の抜けた顔で見たのだろう。
「……あの人に何か言われたか?」
「なにも……」
本当になにも言われていないが、父の疑いは晴れなかった。なにしろ、その顔を見返しているとまた引っ込みかけていた涙が溢れてしまったから。
咄嗟に顔を伏せると父の手が背中を撫でた。そっと肩を抱き寄せられて寄りかかる。
「泣き止もうとするとひどくなるだけだ、難しく考えるのもやめて、力を抜いていなさい」
言い聞かせる声音が懐かしく、父はきっと、自分が泣くのには慣れっこなのだ。
もう間柄を問われれば他人としか言えないスキピオを、父は何の躊躇も、疑いもなく、今も自分の子供だと思ってくれている。兄のこともそう思って扱うから、父はファビウス家の人たちと時々喧嘩をするのだと兄は困っていた。
スキピオにとっても、いまなお彼は自分の父親だった。それは応えてそう思うのではなく、何の段差もなく過去から続く繋がりだった。それなのにそのそばで安堵するほど、慕わしく思うほど、寂しい。
「おとうさんに会いたい」
声に出してやっと、そう思っていたのだと気がついた。
たぶん、ずっと──いつからなのか思い出せないほど長く、そう思っていることに気づきもせずにいた。
だってスキピオには、ルキウスやアエミリアが父からようやく得た安らぎを与えてくれる人が何人もいる。いつでも心配してくれて、目が合うだけで笑ってくれる。何があっても、そう信じうるだけの思い出を重ねてきた。それでも、と思ってしまう。
残された写真や動画がなければ、もう顔も声も朧げになっていただろう。その面影は淡く光に溶けるようなものになって、幼かった日々は遠く離れていく。
誰を指して言うのか、父には分かったのだろう。うんと頷いて、そうだろうなと言った声は何かを思い返すような響きをしていた。
「おとうさん、は」
涙を流れるままにして、父の言う通りに強張っていた肩を落とす。
「ぼくがまだガイウスくらいだったころ……ソファから転がり落ちたのを、すごい勢いで受け止めてくれて、でも気の毒なくらい息を切らして、ぼくの下敷きになって起き上がれないくらいで」
危ないことをすると、自分より先にあの人が壊れしまうのだと理解した頃、スキピオはまだ鮮やかには昔を思い出していなかった。既に母は亡く、彼をたったひとりの家族と信じて、ふたりきりの小さな世界に生きていた。
「一緒に走れないし、大笑いするだけで息がおかしくなるから静かで……料理が下手で、冬はあんまり厚着をさせるからぼくは、暑くって、でも……たくさん着せてくれるのが嬉しかったんです」
「そうか」
「もう会えないんだって、まだそれが分からないみたいに何度も思ってしまう」
「うん……」
「……父上が亡くなったときも心細かった。でも大丈夫とも思えました。おとうさんにも、大丈夫だって言ったんです。前もできた、だから大丈夫……嘘になってしまった……」
「…………」
父の視線を感じたが、持ち上げるのが億劫なほど首が重たい。
昔のようにはあの人はスキピオに望まなかった。その穏やかな気配は昔と変わらなかったけれど、本当はなにを思っていたのだろう。いつも何を話していたのか、何を言われたのか、思い出そうにも何も聞こえてこない。
本当は、昔のことだって自分たちが思うほどには覚えていられていないのかもしれない。
──目を開くとリビングは薄暗かった。レースカーテンの向こうで窓の外はオレンジ色に染まり、庭から幼い笑い声が聞こえてくる。瞼が腫れぼったく、頭も重たかったが、嫌な心地ではなかった。
ソファで眠っていたらしい。どこからか持ち出された枕を頭の下に敷いて、タオルケットがかけられていた。泣き疲れて眠るなんていつぶりだろう。
「起きたか」
声をかけられてやっと、自分の足元に誰か座っているのに気づいた。
「メテルス、なんでいるんですか?」
「この時間に来いと言ったのは君だろう」
呆れられて、そういえばそうだったとぼんやり思い出す。夕飯を食べて行けと誘われそのまま泊まっていけと言われる流れから脱するべく、夕方に来るよう頼んだ。迎えに行くと言い出したのはメテルスだが。
起き上がるとその酷い顔にメテルスが少し笑った。
「なぜ泣いたんだ」
「……さあ……何が何だか……」
「そうか」
まあそんなこともある、その物言いが老人のようで、スキピオはそれが思いの外好きだった。指の背で目元をなぞった手が熱を測るように首元に手のひらを当てる。
壁にかけられた時計はスキピオが指定したより三十分も過ぎた時間を示していた。ずっと起きるのを待っていたなら、申し訳ないことをしたなと思う。けれど怒っているようではない。父と何か話しただろうか。
西陽の入らないリビングは瞬きのごとに暗くなっていく。ふと、気の迷いを起こした。ソファの上をにじり寄ったスキピオが首を傾けて見つめると、メテルスの手がうなじを撫でて引き寄せた。目をきつく閉じて待ち構えるというところから少しは進歩して、目を伏せる。柔く唇を重ねる、その先というものをもう知っていたが、メテルスはそこまで踏み込まずに離れていく。
「目が半分しか開いてないこんな顔相手でもいいんですね」
彼が自分の何を気に入っているのだか未だによく分かっていないのだが、姿かたちをどうこう言われたことはない。
「こんなところで誘い込んでおいて人を好き者呼ばわりか?」
「冗談じゃないですか」
「本心にしか聞こえなかったが。大体……」
言葉を切ったメテルスが目線を上げ、スキピオがそれを追って背後を振り返ると同時に、ぱちんと照明のスイッチが入る。父が部屋に入って、寝癖のついているらしいスキピオの髪を撫でた。
「少しはすっきりしたか?」
「はい。すみません、寝たつもりはなかったんですけど」
「いいよ。疲れていたんだろう」
夏季休暇に疲れるもなにもないのだけれど、そう言ってくれるから頷く。父は笑っているのになんだか渋い顔をしていた。
庭の方から、炭火で肉を焼く香ばしい匂いが漂ってくる。バーベキューをするのだと、そういえばルキウスが言っていた気がする。父はやはり食べていかないのかと言ってくれたが、スキピオは首を振った。タオルケットを畳んで枕のそばに置く。
「お暇します、こんな顔だし」
父はともかく、弟妹は心配するだろう。最初から夕食前に帰ると言っていたのだから、食べ盛りの子供たちの分の食材を横取りするのも気が引ける。
「今日は父上のチェロが聴けて嬉しかったです」
「……練習しておくよ、完全に鈍っていた」
やはり、いささか不本意な演奏だったらしい。やりとりを聞いて意外そうに父を見ているメテルスは、多分スキピオよりは良し悪しが分かる。彼は殊の外子供の相手を上手にするし、今度は迎えに来てもらうだけでなく一緒に訪れようかと思案していると、父が些か剣呑な目つきをしてメテルスを見ていた。
このふたりに何か諍いが起こるほどの接点はなかっただろうに、メテルスの方もそれを受け流す態度がどこか白々しい。
「あの、引っ越しのことなんですけど」
「言わなくていい」
「でも父上、さっきお祖父様が」
「いいんだ。別にメテルスだから嫌というんじゃなく誰であっても嫌だから。いいんだ、プブリウス」
「嫌なんですか……」
誰と一緒に暮らしても嫌? 釈然としないものはあったが断固として言い切られても尚食い下がるほどのことではない。彼との関係を思い直してみたということは。
玄関から出て庭に回ると、既に食事を始めていた弟妹はスキピオが帰ると聞いて大袈裟なくらい落胆していた。泊まっていくんだと思っていたのにと抗議を受け、またすぐに来るからと宥めながら挨拶をした祖父は、明らかにまだ心配していた。
「疲れているんだろう、無理をするものじゃない」
息子と同じことを言って、泊まっていけばいいのにと孫たちに同調しながらも幼子たちの追撃から逃がしてくれる。
そそくさと門扉の方に出ると、父とメテルスが何やら話し込んでいる。ふたり同時にこちらに気がついて振り向いたが、どちらもあからさまな作り笑いを浮かべていたので薄気味が悪かった。
「……父上、喧嘩なんてなさってませんよね?」
「もちろん」
「メテルス、父上に余計なこと言ってませんよね」
「たとえば?」
「もういいです。早く帰りましょう」
父は門の外まで出て見送ってくれたが、バックミラーにはひどく暗い顔をしてため息をつき、額を抑えながら中へ戻る姿が映っていた。スキピオとともにそれを見たメテルスが妙に悪意のない笑みを浮かべていて、やっぱり余計なことを言ったなと思った。
「一度でいいから殴らせてくれ」
「一度で済むとはとても思えないのでお断りします」
「うちのリビングであんなことしておいてか?」
「ご子息方に見られても問題のない程度でしたよ」
「おい…………」
「スキピオのしたがるのが常にその程度で困っているくらいですから、ご心配なく」
「……一度で済むうちに殴らせておいた方がいいぞ」
「彼が私を案じる姿がそんなにも見たいと。私は別に見たくないが」
「お前……想像を絶して嫌なやつになったな……」